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世界の「貧」と「富」をつなぐ投資、”Patient Capital Investment”とは

 2013年11月16日

こんにちは。STONE 永島です。

11月9日の勉強会では、僕が読んだ Jacqueline Novogratz “The Blue Sweater” から、援助に対する一つの考え方、そしてAcumen Fund というフィランソロピーファンドを取り上げました。

The Blue Sweater はジャクリーンが自身の半生を書いたもので、大学卒業後の銀行勤めやルワンダのマイクロファイナンスファンドでの経験、虐殺の話や MBA 課程で気付いたことなどもたくさん書かれています。(なお、日本語訳も出ているようです)

今回の勉強会ではその中でも特に筆者の援助への考えを取り上げましたが、TEDYoutube で公開されている動画なども興味のある方は参照してみてください。

善意がもたらす悪弊 - 開発援助の表と裏

まず断っておくべきは、筆者はチャリティや国家間援助に対して反対しているわけではないということです。彼女が嘆くのは、善意に基づいて集められた金銭や物品その他諸々が、届けられた人たちの自発的な行動や、自ら変わろうとする思考を妨げている場面があるということです。

言葉を変えれば、援助依存とか、援助する側・される側の固定化とか、他にもいろんな表現があるとは思いますが、そういった状況が心優しい人の心優しい行動によってもたらされているとしたら―。もしその善意が、善意を必要とする人たちに、違った方法で届いていたとしたら、救えたはずの命や、見る景色が違ったはずの人があったのではないか。

つまり、「善意」の活用の仕方次第では、自ら問題を解決することができたはずの人が「ダメ」になっていくこともあるし、逆に「最貧困」の生活水準にもっとドラスティックな変化をもたらすこともできたはずだという仮説なのではないでしょうか。

投資によるアプローチ - Patient Capital Investment とは何か

ウォール街での銀行員としてキャリアを開始し、ルワンダではマイクロファイナンスファンドの創業メンバーともなったジャクリーンが、「どんな人」に「どんな方法」で援助をしたらいいのか考えた答えは「投資」でした。特に、最終的にたどり着いた形態を、彼女はPatient Capital Investment寛容な資本などと訳される)と呼んでいます。これがどんなものか、金融や経済学に慣れ親しんでいない人に向けて僕なりに解説してみます。

Acumen Fund 創設の2001年は、1990年代のドット・コム・ブーム(株式会社設立ブーム)の頃から現れ始めた新興富裕層の存在があり、彼らが資産の運用先を求めている、そんな社会的背景がありました。原油価格高騰や金融危機などで一躍有名になったヘッジファンドや一部の個人投資家などの目的は、金融資産(株式や債券など)を安く買って高く売ることで差額を儲けることだったかもしれませんが、 資産家の中には、自らが得た金額の一片(といっても相当額ですが)を社会に還元しようと考える人たちもいました。

そうした資金提供者の善意を、善意が必要な社会起業家のもとへと橋渡しして、最貧困層の生活に変化をもたらせないか。筆者は考え、その一つの方法として、 Patient Capital Investment は生まれました。※1

Patient Capital Investment では、長い期間の返済期間を設けたり、時にはある程度の返済さえ行われればすべてを返さなくてもいい、という資金援助を行うとされています。そして Acumen Fund が投資を行う目的は、善意を提供した資産家に対して儲けの一部を渡して自らも儲けることではなく、資金提供先のビジネスモデルがもたらす最貧困層の生活水準向上の可能性とその規模を広げることとされています。

資金を提供する方法には、一般に返還を求めないものと返還を求めるものの2つに大別できますが、ジャクリーンが立ち上げた Acumen Fund は後者のアプローチをとっています。返済を必ずしも求めない、けれども投資という形にこだわる、その理由には、

  • ビジネスモデルの長期的な持続可能性を求めていること
  • 資金提供を受けた側が自らのもたらす変化に責任を持つこと
  • 事業が拡大していくことで初めてより多くの最貧困層にサービスが届く

などを筆者は挙げています。※2

ジャクリーンが大事にする視点 - Acumen Fund の活動

Acumen Fund の創設にあたり、ジャクリーンが資金提供先に必要だと考えていたポイントは

  • リーダーシップ(変革を自ら起こそうと考え、行動していること)
  • 持続可能性(単発のプロジェクトや支援頼みのモデルでなく、自立した事業であること)

だけではなく、もう一つ

  • 拡大可能性(資金提供により、より多くの最貧困層に変革をもたらすことができるようになること)

を挙げています。

ジャクリーンは、新しい機器や先進技術の導入は大切だと考えているが、技術そのものが変革をもたらすのではなく、技術を用いて提供されるサービスこそが変革をもたらしうるのであり、それによってもたらされた変革とその結果が追求されるべきものだという考えに立っています。

創設時に医療・健康分野への資金提供から始まった Acumen Fund の活動も、資金提供先の事業分野(2013年11月9日現在)は

  • 農業
  • 教育
  • エネルギー
  • 医療・健康
  • 住宅事業

にまで広がり、その金額も数十万ドルから数百万ドルと、成長を遂げていることがうかがえますね。

その資金提供先の事業について、著書には出ていないものを少しだけ取り上げます。

1.Pharmagen Healthcare Ltd.

パキスタンにおける重度の健康被害の40%が水道の整備状況に起因しているとの問題に対して、一つの解決策はミネラルウォーターを購入する方法があるけれども、低所得世帯には手が届かない状態とのこと。

これに対し、WHO の基準を満たす飲み水を作り、低所得世帯が買うことのできる値段で売る事業を行うPharmagen Healthcare Ltd. という会社に資金提供を行っています。

この会社、1日に10万L以上の飲み水を提供しているそうですが、資金提供によって生産設備の拡大を図り、飲み水の生産能力を現在の1万3000L(毎時)から12万9000L(毎時)にまで向上させることを目指しています。Acumen Fund の報告によると、2010年から始まったこの資金提供はこれまでに150万ドル、その影響範囲は110万人に及ぶとのこと。すごいですね。

2.Medeem

土地の所有権が文化的な背景から土地の所有権が不分明で、所有の明確化のための行政コストが多大なため、低所得者の権利があいまいな状態になっているガーナでは、個人の死亡などに際して不法な土地の接収などが起こるとのこと。

その状況に立ち向かう Medeem は、GPS機能のあるモバイル機器を使った低コスト・迅速な対応を行うサービスを提供し、低所得世帯が基本的な行政サービスを受けたり、土地の所有を担保にした融資を金融機関から受けたりすることを可能にしているそうです。Acumen FundMedeem への資金提供を2012年に開始し、延べ100万ドルの出資のもとで現在までに7000人の人々にサービスが届けられた、としています。※3

Acumen Fund への資金提供者であれば、いつ、どこに、どれだけの金額が融資され、どのような事業がどのような活動を行い、どんな変化がもたらされているのか、こうした形でいつでも見ることができるのは大事ですね。

勉強会での意見

こうした内容を踏まえて、援助のあり方など、感じたこと・出た意見などを一部挙げてみます。

  • 善意を無駄にしないように、この分野に興味を持っている人は正しくディレクションしなければならない。
  • 現地に行かなければ分からないことがあることは否定しないが、現地に行ったら100%学べるというわけではない。経験主義一辺倒ではなく、事前に学べること、事前に学ぶからこそ見えてくる現地のことがあることを強く思う。
  • チャリティより投資がよいであろうということは思うが、投資が自分のやりたいことかどうかはわからない。
  • ビジネスとしてやっていくとグローバルな資本主義に巻き込まれていくわけで、そこに違和感を感じる。

まとめ

著者の言わんとするところは、

  • 善意から出た行動が悪い影響をもたらすことがある
  • Patient Capital Investmentという方法によって、市場経済の中でビジネスにより最貧困層の生活水準向上に寄与することができる
  • 資金提供先に必要な素質はリーダーシップ、サステナビリティ、そしてスケーラビリティ
  • 評価の基準は起こした変化がもたらした結果によって測られる

どうでしたでしょうか?援助のあり方、その一つの考え方としての Patient Capital Investmentと、実行母体の Acumen Fund。著書ではほかにもいろんな話が出ていますので、ぜひご一読をお勧めします。

※1 Acumen Fund 自身が存続していくためには、善意の資産家による資金提供が不可欠ですが、1970年代から2000年代まで一貫して米国GDPのおよそ2%程度が慈善事業(=「善意」)に充てられている、との調査があります。

※2 Acumen Fund のホームページにも書いてあるように、儲けることを全く考えていないというわけではありません。Patient Capital Investment が求めるのは、少しでも高いリターンを生み出すことではなく、最貧困層の生活向上を目指す事業家が実際にもたらす変革とそれによる結果だということです。著作の中でも、リターンを追及しないということではないと書かれています。

※3 昨今の南アジア・アフリカなどでは、土地の所有をめぐってあちこちで争いが起こっており、場合によっては武器を用いるようなこともあるとのこと。開発関係の専門家の間でもホットな問題です。興味がある方は こちら(外部リンク) こちら(STONEの過去記事) などを参考にしてみてください。


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