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途上国で起こるイノベーション、リバース・イノベーションとは何か

 2013年10月19日

リバース・イノベーションという言葉をご存知だろうか。途上国・新興国進出に関わる人やBoPビジネスなどに関心のある人には既知かもしれないこの概念。本稿では、リバース・イノベーションの事例、ポイントについて、ビジャイ・ゴビンダラジャン著リバース・イノベーションから紹介する。

リバース・イノベーションとは

途上国で生み出されたイノベーションのことをいう。イノベーションは先進国から生まれると多くの人が思っているが、実は途上国でも生まれている。さらにそれらのいくつかは、実は我々の生活にも浸透している。途上国で起きたイノベーションが還流(リバース)して、先進国でもイノベーションになるのである。

リバース・イノベーションの事例

性能のギャップに着目した、ノキアの携帯電話

リバース・イノベーションを考える上で出発点となるポイント、途上国と先進国の間おける、性能、インフラ、持続可能性、規制、好み、この5つのギャップである。この中の性能のギャップに関わる事例を紹介する。

途上国のニーズに対処する手っ取り早い方法は価格と性能を落とした商品を販売することであるが、途上国の人々が望んでいるのは超割安なのに良い性能をもつ商品である。例えばノキアは、超低コストの携帯電話を造り5ドルで買えるようにすることで、インドで60%というシェアを獲得した。ヒンディー語のテキストメッセージ機能はハードウェアでなくソフトウェア上の変更に止め、強力な懐中電灯のような機能を追加した。懐中電灯機能は電気が普及していない地方の顧客から高評価であった。

途上国の人々は、先進国の人々がかつて直面していた問題とは違った問題を抱えていたり、同じような問題であっても置かれている状況が異なっていたりする。また、技術レベルやコスト感も異なっているため、ゼロからの発想が求められる。

先進国に還流するリバース・イノベーション、GEの携帯型超音波診断装置

さて、途上国で起きたイノベーションが先進国市場にも進出してくるのはどのような状況のときなのだろうか。それは、取り残された市場、あるいは、明日の主流となりえる市場、でのイノベーションであったときだ。

GEヘルスケアの商品にヴィースキャンという携帯型超音波診断装置がある。これは現在救護員、救命救急室、手術室などで利用されており、3.11の大地震の際にも大いに活用された。日本の場合、訪問医療のニーズが大きくなっていくことから、ますますヴィースキャンが普及することが予想される。そんなヴィースキャンは元々中国のニーズを満たすために生まれた商品であった。

GEヘルスケアは1980年代から中国に進出していたがなかなか売上を伸ばせずにいた。そこで、2002年に初めての小型超音波診断装置の発売を開始。改良が勧められ、現在この製品は従来品の約15%(15万円程度)で販売されており、2010年には小型超音波診断装置関連製品の世界での売上は2億7800万ドルにまで急増した。

低価格で、小型、かつ使いやすい携帯型超音波診断装置は、中国の農村地帯に広く普及。今まで何時間もかけて都市部の病院に通っていた女性たちであったが、今では村で診断を受けることができるようになった。

医療インフラの整っていない中国の農村地域と、被災地や今後の地方の状況が似ていたことから、中国で起きたリバース・イノベーションが先進国でも利用されることとなった。被災地はある種取り残された市場(投資するには小さい市場)であり、今後の地方医療は、主流となりえる市場と言えるだろう。このケースのポイントは、途上国と先進国の性能のギャップを意識して作られた製品の質が向上したことにある。結果的にではあるかもしれないが、技術発展をうまく利用したと言える。

同様の例としてはネットブックなどが挙げられるだろう。非営利組織であるOne Laptop Per Childが貧困国の園児が利用できる超低価格のノートPCを作ろうとした。これはMITメディアラボによって設計され、台湾メーカーのQuanta Computerが製造し175ドルで売りだされた。その後ASUSが途上国向けにEeePCを200ドルで発売。そこから技術が進歩して品質が高まり、先進国でも販売されるようになった。

※本書ではタタ・モーターズのナノもリバース・イノベーションの一つとして掲載されているが、現状を見る限りあまり良い結果となっているわけではなさそうなため記載しなかった

白紙の状態から市場を理解する、P&Gの事例

途上国でビジネスを成功させるには、先入観なしに市場を理解することが肝要である。以下、性能面でのギャップに着目したP&Gのメキシコにおける生理用ナプキン事例を紹介する。

メキシコでグローバルブランドであるオールウェイズの販売を開始した後、メキシコではその売上が下降の一途をたどるようになった。そこでメキシコ人女性の生活を調査したところ、生理用ナプキンに求めるニーズに違いをもたらしそうな生活の違いを発見した。

  • 公共の交通機関を使った長時間の通勤に耐えなくてはならない場合が多い。
  • 衛生的な公共トイレにはなかなか行けない。
  • プライバシーが守られない、小さな家やアパートで暮らしている事が多い。数人の家族が同じベッドで寝ることもしばしば。

暑くて湿度の高い地域で長時間同じナプキンをつけていると、皮膚の不快感や炎症が生じやすくなる。また、長時間の利用によって臭いがすることも気になり出す。このような大きな問題を解決することが主眼に置かれることとなった。その他、メキシコ人女性が感覚刺激に敏感であること、化学物質によるハイテクソリューションよりも自然素材を用いた商品を好んでいることなどが分析で明らかとなり、ナチュレラという商品が開発されるに至った。

イノベーションを実現する難しさ

理論として”白紙の状態から考える”と叫ぶことは簡単だが、実践することは非常に難しいに違いない。例えば上述したナチュレラは、開発に2,3年以上の歳月をかけている。プロダクト・ライフサイクルが短くなっている今日において調査や開発にお金と時間を大量に投資することはなかなか出来ないであろう。まして企業サイズが大きくなればなるほど、社内を動かしていくことは一筋縄ではいかないはずだ。

本著で特筆されているわけではないが、引き合いに出されている例はやはり低価格を実現したケースが多い。BoPビジネス界隈においては、アフォーダビリティ(Affordability)、アクセシビリティ(Accessibility)、が満たすべきポイントとして必須とされているが、リバース・イノベーションにおいても例外ではないであろう。消費者の求めている最低限の機能を特定できたとしても、その機能を持ったアフォーダブルな商品を開発することは簡単ではない。理論以上に、現実に社内のヒト・モノ・カネを動かし、形にしていく作業を仕組み化していくことが最重要課題だ。

それでも私が個人的に希望を持っているのは、GEなどの大企業が率先してリバース・イノベーションを起こそうと取り組んでいることだ。例えばGEヘルスケアはすでに高価格帯の医療機器から、農村地域をターゲットにした医療機器の開発にフォーカスをシフトしている。途上国市場は人口が大きいだけに、一度うまく顧客に訴求することができれば爆発的に広がるだろう(医療の場合すでにGEヘルスケア、シーメンス、フィリップスの独壇場だが)。どのような社内体制で取り組んでいるのか、個人的には非常に気になるところだ。


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