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研究の現場から -農家にとっての土地への権利を考える その3-

 2014年3月30日


こんにちは、永島です。
連載第1回は、農家にとって土地の権利を所有していることはどういう意味を持つのか、農地における行動の自由という観点から掘り下げました。
連載第2回では、農家が実際に行う生産性向上のための行動にはどのようなものがあり、農地利用の自由度とのかかわりについても考えました。
今回は、前回までの理論的な考察が、現実にどの程度うまく当てはまるのかを、Fenske (2011) の論文をなぞりながら見ていくことにします。

アフリカ 農業

Fenske(2011) の中では9つもの他の実証研究の結果を取り上げ、同じデータを用いて改めて分析を行っています。今回のエントリでは、その中から3つの事例をピックアップし、理論と現実の整合性を考えてみましょう。※1


Benin (ベナン) の例 – 土地への権利は効果なし?

Benin

残念ながら、連載第1回、第2回でご紹介した、土地への権利と投資行動の関係は、ほとんど確認できませんでした
その代わり、土地を借りている場合よりも、遺産相続した土地の方が施肥量が多い※2傾向にあることはわかりました。
本来であれば、土地への権利が強固であることが投資行動を促進するような効果があることを発見したかったのですが、もしかしたらその効果は理論上の想定にとどまるもので、実際には存在しないかもしれません※3


Burkina Faso (ブルキナ・ファソ) の例 – 土地への権利はやはり重要?

Burkina Faso

連載第1回で紹介したデータを用いて行われたブルキナ・ファソでの研究では、いくつかの効果がありそうだと推定されました。

まず、借りた土地よりも親族などから譲り受けた土地の方が、平均して5年ほど長期間耕作されることがわかりました。同じ農家が長く耕作を行うのであれば、少しでも収入を多くしようと投資行動を行うと推測できます。
実際に投資行動のために投下された労働量が、譲り受けた土地の方が貸借地よりも多いことも明らかになりました。
また、土地への権利の保有に、男性と女性の間での大きな違いがないこともわかりました。


ところが、不思議な結果も見えてきました。
比較的安定した権利がある土地では、より多くの労働者を雇って耕作する傾向がある※4のに、一度休閑してからまた休閑するまでの耕作期間が長いというのです。
このある種の逆説について、Fenske (2011) は Matlon (1994) の説明を借りています※5

人口が増えたり、食物需要が増えたりすると、休閑により一定期間の収穫を諦めてでも土地の生産力を回復することが難しくなる※6
代わりに、肥料を与えたり、高生産量品種を利用するなど、休閑期間が短くても生産量が上がる方法が採用されやすいだろう。
そして「人口が増える」「食物需要が増大する」ことは(経済発展の過程として)「土地の権利に関する制度が整備される」「土地利用の自由度が上がる」ことと時を同じくして起こるかもしれない(つまり、どちらが先かは鶏と卵だということです)。

実際、親族から譲り受けた土地よりも、借りた土地では肥料がより多く使われていることが、今回のデータから明らかになっており、この説明はある程度説得力があるかもしれませんね。


Ghana (ガーナ) の例 – 土地への権利は有害?

Ghana

Fenske (2011) はガーナの例を5つも使っていますが、本エントリではそのうちの一つを取り上げています※7
第2回のエントリで、権利と投資の両方向の影響について考えましたが、統計学の研究から、そのうち一方だけを調べることができるようになりました。
その操作を行わない場合、土地の権利が強固になれば、農家の投資行動が促進されるという結果が出てきました。
ところが、その操作を行うと、その効果が見つからないばかりか、「土地への権利が強固になると投資行動が妨げられる」という結果まで出てくるようになったのです。


より詳しく、投資とおおまかにくくっていたものを細かい具体的な行動にわけてみると、排水設備、農地の深耕、灌漑、マルチング※8に対しては有意な効果が認められました。
そのうち、排水の整備と農地の深耕については、公的な土地所有システムがなくとも促進される可能性が指摘されました。つまり、所有している「と思っている」だけで効果があると言っているのと同じで、これらの投資行動が農業生産性を飛躍的に高めると考えられるなら、政府機関が土地制度に介入する必要はない(?)という人も出てくるかもしれません。
さらに、公的な認可がなく、過去に訴訟(あるいは伝統的な裁判制度)で耕作が認められていることと、灌漑設備の新設は強い関係性を持っていることもわかってきました。このことは、「権利が投資を誘発する」ことと同時に「投資が権利を従えている」こともあることを意味しています。灌漑設備がその人のものだから訴訟に勝利した、という可能性があるためです。


研究結果を踏まえた結論と、今後の展望

大雑把に、上記の3つの例をまとめ上げると、次のようなことがわかってきそうです。

  • 国や地域、文化や慣習によって、「土地の権利性」と「農業投資」のあり方や関係性が異なる可能性がある
  • 投資ととらえられる事柄でも、その個別具体的な内容によって土地の権利が強固になることにより促進されるものと、そうではないものがある可能性がある
  • 「権利が投資を誘発する」関係と、「投資が権利を保障する」関係と、両者が確かに存在する可能性がある

これら今までの数多くの調査研究の成果をふまえ、今後土地の権利性と農業投資の関係の研究はどこに向かうのか、それが開発のどのような文脈で生きてくるのか、といったことを次回まとめてみたいと思います。


脚注

※1 今回のエントリでは、統計学や計量経済学を学んではいない人を対象に、開発経済の研究ではどのような考え方をしているのか、その考え方をするとどんなことがわかるのか、を知らしめることが目的なので、推定の方法や有意性の検定などのテクニカルな内容は省いて、結果だけお伝えしています。興味がある人は、ぜひ大学院で開発経済学を一緒に学びましょう。

※2 統計学的な意味で多いということが判明した、ということであり、単純な相関関係ではないということだけは付け加えておきます。

※3 効果があることを確認する研究も大事ですが、効果がないことを示す研究もときに重要です。特に、土地制度政策など不要だと主張する際には、重要な研究成果として引用されるかもしれません。

※4 一人では間に合わない雑草取りなどもできるようになり、生産量が上がるかもしれないという意味だけでなく、労賃のかからない家族労働よりも地域経済や国全体の経済開発にも雇用の創出という意味で貢献するかもしれず、重要な事柄です。

※5 直接訳すと難しいので、私の言葉でまとめました。もし、説明を簡単にしたせいで内容に不備があるとすれば、それは私の責任です。

※6 これは、農家自身も自分が栽培しない作物や食肉などは購入する必要があり、そのためには所得が必要で、「食物需要の上昇」→「食物の市場価格高騰」に対して対応するには、休閑による土地の生産力向上を待つ余裕がなくなる、という経済の基本原則に則った説明になっています。

※7 このデータは、世界銀行が土地制度改革を推進する目的で、土地の権利性の明確化が投資行動に有効な効果を持つことを報告した際、同じデータを用いて Besley (1995) が違う推定を行ったところ、全く効果がないことを発見した、いわくつきのデータです。このデータを再度用いて、Fenske (2011) は結果を検証しました。

※8 マルチング とは、土壌をシートで覆うことをいいます。詳しくはリンク先を参考にしてください。


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