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研究の現場から -農家にとっての土地への権利を考える その2-

 2014年2月28日


こんにちは、永島です。
前回は、農家が土地を耕すとはどういうことなのか、その行動選択の自由度という点から土地の権利性を考えました。
連載2回目としての今回は、それが農家にとっての「投資」行動とどのような関係があるのか、みてみることにしましょう。

アフリカ 農業


農家にとっての投資とは -途上国の文脈で考える-

このブログを読んでくださっている多くの人が住んでいるような先進国で考えれば、農家にとっての投資とはトラクターや耕耘機を新しいものに入れ替えるというような大規模なものを想像するかもしれません。しかし、農業開発の文脈で考えれば、より広く「将来の作物の出来の向上につながる行動」として考えられ、実際にはもっと多くのことが当てはまります。
例えば…

  • 土地の周縁に木を植える(上記の権利では、「他人の家畜の侵入を拒否する」という項目に対応するほか土壌流出を防ぐことにもなります)
  • 肥料を与える(土壌の肥沃度を高め生産性の向上につながります)
  • 排水溝・用水池を作る(農業には水は欠かせませんが、それ以外にも河川の洪水などを防ぐことになったりもします)
  • 作物を植えない(休閑ともいい、連作障害の防止などに役立ちます)
  • 土地の境界をはっきりさせる(他の人が入ってくるのを防ぐことで、自分の農作業に集中でき、これも投資といえます)
  • 樹木作物を植える(毎年種苗を購入して栽培するトウモロコシのような作物から一定期間収入源になる樹木作物に切り替えるのも投資と呼ぶことがあります)
  • 改良型の高生産量品種を採用する(hybrid seedsとかhigh yielding variety [HYV] とか言われることがあります)

など、実に多様です。
その一方で、土地を他者から借りている場合、その契約や約束の内容によっては、やっていい・やってはだめということが明確に決められている場合や、はっきりと言われてはいないが投資してしまうと今後土地を使わせてくれないような文化がある場合もあります。

こういった種々の投資行動が、土地を自由に使えることとどのような関係にあるのか、ある程度直感的なようではありますが、きちんと示すのが研究の世界です。Fenskeの論文に限らず、実証研究では、理論や直感で思っていることを明確にしないと、統計的推論が正しい結果を導かないことがあるため、細心の注意を払うことになります。


途上国の農家の土地利用と投資の関係を考える3つの効果

農家にとって、農地は常に使えるとは限りません。土地を貸借している場合は、契約の更新が必要になります。その際、本当に更新できるかどうかは貸主との関係に依存し、今年肥料を与えて休閑させていた土地が来年はもしかしたら使えなくなるかもしれません。
そこでカギになるのが、今年使える農地が来年も使えるだろうという予想です。
この予想の確度が高ければ高いほど、農家は土地の改良に意欲的に取り組むことになるでしょう。これをassuarance effectと呼びます。

投資によって生産性の上がった土地を、自分が将来使わなければならない理由は必ずしもありません。生産力のある農地は同じ地域の他の農家や他の地域から移ってきた人たちから見ても魅力的なはずです。
こうした人たちに少し高い値段で貸したり売ったりできるようになるとしたら、これも農地への投資を行うインセンティブになると考えられます。
このことをrealizability effectと呼びます。

あるいは、そのような価値の高い土地が手元にあるということは、自身の不動産の資産価値が評価されることになり、将来事業を始めたいと思った時に金融機関から資金を調達する際に役立つかもしれません。近年では小規模融資を行うマイクロクレジット※1と呼ばれる金融サービスも注目を集めています。
このようなことを農家が認識しているとすれば、投資を行ってその資産価値を元手にしようと考え、農地の改良に取り組む可能性もありそうです。これはcollateralization effectと呼ばれる土地への権利の性質です。

このように、土地への権利が明確であればあるほど、土地利用の自由度が高ければ高いほど、農地の改良が進み、結果として農家の所得向上につながったり、(同じ収入を得るのに少ない人出で済むようなら)子供を学校に行かせることができるようになったり、好循環が生まれる出発点として機能するのは一見明白なようです。
ただ、これはあくまでも「直観」や「理論」の部分での話。本当にそうなのかどうかは、現実を調べて詳しく検証しなければなりません
実際、土地への権利が強固だから投資が活発に行われる、という因果関係を明らかにするのは難しいとされています。それがなぜ難しいのか、難しいとわかっていながらも精力的に研究がつづけられているのはなぜか、考えてみましょう。

※1 リンク先のページでは「無担保」となっていますが、マイクロクレジットのすべてが無担保ではありません。むしろ、担保として何らかの資産の所有を求められることは多くなっています。また、融資のプログラムの内容によっては、担保の規模により多くの金額の融資を受けられるようになるものもあります。


権利が先か、投資が先か

日本だけでなく、世界で通じることわざの一つに「鶏が先か、卵が先か」というものがあります。鶏がいるから卵が産まれるのか、卵があるから鶏(考えてみればヒヨコですが)がいるのか、そのどっちが先かを特定するのは哲学なのか生物なのか私にはよくわかりませんが…
話が逸れないようにしましょう。これまで考えてきたことは、権利が強固だから土地の生産性を高める投資行動が誘発される、という方向の効果でした。いってみれば、「権利があるから投資が起こる」の議論です。

しかし、実際にはこんなストーリーも説得力がありそうです。「先祖代々権利など考えずにこの土地を使ってきた。私の家系はこの土地で暮らし、生活を豊かにするために土地を耕し、肥料を施し、雑草をむしり、柵を立て、家畜小屋も作った。実質的にこの土地は私のものだ。新しく土地所有制度を作るなら、この土地の権利は私のものだ。」

これはどうでしょう。土地の権利がなくとも投資を行う農家はいるでしょう。投資を行えば行うほど、はた目からもその土地があたかもその農家の資産であるように見えます。政府が土地制度を明確化しようとすれば、その人に土地の所有権を与えるのは、自然なことのように思えます。

実際、そのように土地所有を明確化することは歴史的にも当然のように行われてきました。日本でも、明治時代の地租改正や、太平洋戦争後の農地改革では、基本的に「実際に農作業を行っている人」に対して土地を分配する政策がとられました。
つまり、「投資を行うから権利が保障される」という方向の影響も十分に考えられるのです。

この両方向の影響は、土地の権利が不分明な途上国においてより顕著であるように思われます。土地の権利が明確であれば、その土地を(ほぼ確実に)使うことができる期間はある程度錯誤なくわかっていますから、投資が権利性に与える影響は小さいでしょう(投資したからもっと使えるようになった、という事例は比較的少なくなるでしょう)。


途上国における権利と土地利用の関係の研究の意義

ここに、この研究の意義が見えます。

例えば、あなたが所得の低い農業国の政府の役人で、政府財政を立て直すために土地などの資産に課税することを考えたとしましょう。そのとき、国中のありとあらゆる土地を誰が所有しているのかがわからなかったら、いったい誰に税金を払ってもらえばいいでしょうか?
あるいは、Aさんが「隣に住んでいるBさんが自分の耕作地を勝手に他の人に売ってしまった。返してほしい」と裁判所にかけつけてきたとして、その土地が本当にAさんのものなのかどうかどうしたらわかるでしょうか?先祖代々誰の土地であったかを、訴えが出てくるたびに毎回調べないといけないとしたら、行政の業務は滞ること間違いなしです。

こういった(想定内の)問題を未然に防ぐには、所有を明確にする必要があります。ただ、がむしゃらに権利を誰彼かまわず与えることが、なんらかの負の影響を持つとしたら、「明確」にするという作業自体を疑うことにもなりかねません。
そこで、権利を与えるということが、農地の場合であればどんな影響を及ぼすことになるのか、あらかじめ知っておく必要があります。その影響を知ることができる、そういう意味で、この分野の研究には意義があると考えられます。


理論から現実へ -実証研究からわかること-

これまでに見てきたように、土地への権利性が農地利用の効率化を促進する側面と、農地への投資行動が土地への権利性を強めr側面の二つが、このテーマをめぐる大きな柱であると考えられています。次回のエントリでは、これまでの理論的(あるいは説明的)な議論を踏まえて、現実のデータを集めて分析した多くの研究の成果と、そこから何がわかるのかについて、考えていきます。


次回: 研究の現場から -農家にとっての土地への権利を考える その3-


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